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 『 繊月 』  ~「新月」その後のお話~


今日は比較的早く帰って来れたし、この時間ならまだヒロさんも起きてくれているんじゃないかと淡い期待を抱いて自転車のペダルを踏み込む。夏場の自転車通勤は、日が高いうちは地獄の苦しみだが、日が暮れてから夜風に吹かれて自転車をこぐのは案外気持ちがいいものだ。

マンションについて、エレベーターが下に降りてくる時間ですら待ち遠しく思いながら、急いで部屋を目指す。


「ただいまです。」


玄関を開けてすぐにリビングの明かりが見えたから、声をかけたものの中から返事は返って来なかった。

ヒロさん、本でも読みながらソファでうたた寝でもしているんだろうか・・・それとも仕事でもお持ち帰りしていて集中するあまり聞こえないのかな・・・などと考えながらリビングのドアを開けると、ソファで膝を抱えたヒロさんが熱心に何か小さな紙片を覗き込んでいるのに気が付いた。
後ろから覗き込むのも失礼かな?と思ったので、先に気付いてもらえるようにと、少し大きめの声でもう一回「ただいまです」と近くで言ってみた。

「うわあああ!野分っ!・・・な、何だお前帰ってたのかよ。帰ったならそんな部屋入る前に何かその・・・・っ。」

ヒロさんは明らかに不自然な様子で、慌てて手に持っていたものをクッションの下に押し込んだ。

「・・・・玄関でも、ただいまって言いましたよ。でも返事が無かったから入ったんですが・・・・。」

「そうか!それは悪かったな!今日も一日労働ご苦労様で・・・・・。」

「ヒロさん、何か隠しました?」

クッションの上に不自然にもたれかかるヒロさんの様子に不審を抱きながらクッションをどけようと手を伸ばす。

「・・・ちょっ・・・野分てめぇ、勝手に何見ようとしてんだよ!」

「隠されると余計に見たくなります・・・。」

往生際悪くクッションの上に覆いかぶさるヒロさんの髪にチュッと口づけると、彼は小さく肩を竦めた。

「あ・・・っ・・・お前、くすぐるなんて卑怯・・・!や・・・っやめろって!触るの反則だからな・・・・・っ。」

反則って何ですか。可愛いなぁ。
脇をくすぐられたヒロさんが体を捩ったその隙に、ズボッとクッションの下に手を突っ込んだ俺は、何かの紙切れの様な物を掴んで引っ張り出した。

それは、ヒロさんが赤ちゃんを抱いた写真で・・・。

「・・・・ヒロさん、いつ隠し子を・・・・?」

「んな訳あるかっ!・・・そりゃ、お前だッ!!」

そう言われて改めて写真をよく見ると、スーツ姿のヒロさんが首から斜めがけしたスリングの中には、真っ黒な髪の赤ん坊の頭が覗いていて、はっと数か月前の事を思い出す。

もうあれから何か月か経つが俺は春頃、突然肉体が若返る・・・という奇病にかかった。結局診断を受けた訳でもないから、病気だったのかどうかすら今となっては分からない。
どんどん子供に還っていく俺を気丈に支え、赤ん坊の世話などした事もないのに、必死になって面倒を見てくれたヒロさん。この写真はおそらく昼間赤ん坊を家に置いていく訳にはいかない、と俺を連れて大学に通っていた頃のものじゃないだろうか。

「今日いきなり女子生徒からもらったんだよ・・・・。こっそり隠し撮りしてたんだと。最初は鬼の上條が子連れで来ているからって面白がって撮ったそうなんだが、改めて見ると結構いい写真だったんで、記念にあげますとか何とか言って押し付けられた・・・。」

写真の中のヒロさんは、ちょっと困ったような顔で、それでもしっかりとスリングの上から俺を抱きしめてくれていて、胸がきゅっと締め付けられた。

「俺・・・・覚えています。この時の事。」

「そんなもんは早く忘れろ。」

「色んな不安材料はあるはずなのに、ヒロさんに抱っこされていると、そういうもやもやした気持ちがみんなどこかに吹っ飛んでいっちゃうんです。ヒロさんが居てくれるから大丈夫・・・っていう安心感でいっぱいで・・・本当に幸せでした。」

写真を手にしたままソファのヒロさんの隣に腰を下ろすと、彼は少し赤い顔をしてぷいとあさっての方を向いてしまった。

「俺は・・・もうごめんだからな。・・・あんな大変なの。」

「・・・・はい・・・。」

写真とは反対に、今度は俺がヒロさんを背中からしっかりと抱きしめる。

トクトク・・・と背中から響いてくるヒロさんの鼓動の音。あの時もこの音に何度励まされ、支えてもらったか分からない。
ヒロさんが生きているという証。愛されていると教えてくれるぬくもり。絶対的な安心感を与えてくれる二つの腕(かいな)。
世界には俺とヒロさんの存在しか無くて・・・・。

「あんな・・・不安なのも・・・ごめんだ・・・・・。」

聞こえるか聞こえないかという小さな声で呟いたヒロさんをぎゅっと強く抱きしめて、全力で・・・自分の一生をかけてこの人を愛し守り続けようと心に誓う。

ヒロさんは俺の父であり、母であり、兄であり、師であり、愛してやまない大切な恋人だ。

「大丈夫です。ずっと俺が傍にいます。」

腕の中のヒロさんは黙ったままで、そっと俺の腕を抱き返してくれた。


  ◇ おわり ◇
 

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